工場フィジカルAI「人型」の手前に──自律移動サービスロボットが担う2つの役割と、現場実装のリアル【登壇レポート】
フィジカルAIというと、人の形をしたヒューマノイドを思い浮かべる方が多いかもしれません。しかし工場の業務には、完全な人型でなくても対応できるものは多く存在します。
2026年10月13日、Japan Mobility Show Bizweek 2026の会場で行われたPlug and Play Japan主催のインプットセッション「Physical-AIテクノロジーが支える新たな労働力」に、当社の藤永が登壇しました。本記事では、登壇内容をもとに、自律移動サービスロボットが工場で担う役割と、導入の現場で実際に起きていることをご紹介します。
セッション全編の動画(約48分)。藤永の登壇ピッチは6分ごろからです。
セッション概要
「人手不足の現場で、技術にどんな仕事を任せられるのか。実際に使うには何が必要で、働き方はどう変わるのか」を、領域の異なる3社が議論しました。
| 日時 | 2026年10月13日(火)16:00〜16:45 |
|---|---|
| 主催 | Plug and Play Japan(Japan Mobility Show Bizweek 2026 アクセラレーション・共創推進プログラム/コミュニケーションエリアA。モデレーター:同社 王氏) |
| テーマ | Physical-AIテクノロジーが支える新たな労働力 |
| 登壇 | ビットクォーク株式会社 COO 小野沢耕也氏(生産ラインシミュレーション) iPresence株式会社 営業統括 藤永晴人(自律移動サービスロボット) エバーブルーテクノロジーズ株式会社 代表取締役CEO 野間恒毅氏(除雪ロボット・小型UGV) |
セッション冒頭の会場アンケート「明日からAIロボットに仕事を1つ任せるなら?」では、「毎日繰り返す単純作業」を選んだ方が最も多くいました。

FAロボットとヒューマノイドの間にある「いま現場に入れる」領域
工場のロボットは、大きく3つに分けて考えると整理しやすくなります。
| 種類 | 得意なこと | 現場への導入 |
|---|---|---|
| FAロボット | 決まった場所で、決まった作業を繰り返す | すでに普及 |
| 自律移動サービスロボット | 現場を動き回り、見て・聞いて・伝える | いま導入できる |
| ヒューマノイド | 人の作業を、人の形のまま担う | 開発・実証が進む段階 |

「ヒューマノイドに人の仕事をすべて任せたい」という期待はあります。ただ、いま現実に仕事を担えるのは、その手前にある自律移動サービスロボットです。
iPresenceが展開するテレプレゼンスAIロボット「temi」は、この領域にあたります。LiDARとSLAMで自律移動し、頭部のディスプレイで画像表示やビデオ通話ができます。移動せずにその場で周囲を見渡す卓上型の「kubi」「Telepii」は、当社で自社量産しています。

1台で2つの役割:「AIの目・耳・手足」と「人の分身」
temiの強みは、自律AIとテレプレゼンス(遠隔操作・ビデオ通話)の2つを、同じ一台が移動しながらこなせることです。
- 自律AI:AIの目・耳・手足になる。移動・画面表示・多言語の発話をプログラムし、ロボットだけで自動実行します。現場の情報をAIに渡し、AIの判断を現場に返します。センサーが増えるほど、任せられる仕事も増えます。
- テレプレゼンス:人の分身になる。遠隔地の人が「インターネットラジコン」のように現場を歩き回り、顔を見せて会話します。離れていても、実際に現場に行っているようなコミュニケーションができます。
どちらの役割も、支えているのはマッピングです。地図を簡単に作れて、地点を正確に認識できるから、自律巡回も遠隔での移動もスムーズになります。

工場での使い方:決まった仕事はAIが、判断が要る場面は人が遠隔で
工場では、すでに次のような使い方で導入が進んでいます。

| 役割 | 使い方 | 内容 |
|---|---|---|
| 自律AI | 巡回設備点検 | 決まった時刻に自動で走り出し、メーターや温度計を撮影して記録する |
| 自律AI | 巡回アナウンス | あいさつ運動や安全啓発の呼びかけを巡回しながら行う |
| 自律AI | 工場見学案内 | 来訪者を先導し、多言語で説明する |
| テレプレゼンス | 遠隔巡視 | 入室や移動をせずに、管理室から現場を確認する |
| テレプレゼンス | 品質管理の遠隔支援 | 本社の品質管理部門や熟練者が、地方工場を遠隔からサポートする |
| テレプレゼンス | 現場の打ち合わせ | 渡航や出張をせずに、現場の打ち合わせに参加する |
巡回設備点検:24時間、1時間に1回
最も具体的なのが、定刻自動巡回撮影サービス「Field Log」です。例えば「24時間、1時間に1回」と設定すると、定刻になるとロボットが自動で走り始め、メーターを順に撮影して回ります。
1周し終えるとデータをクラウドにアップロードします。メーターの数値は遠隔からビューアーで確認でき、数値の判定、異常値の検知、レポート作成をAIに任せることもできます。

あいさつ運動:まずロボットを身近にする
工場では搬送ロボット(AMR)が走っていることは珍しくありません。それでも「従業員にとってロボットをもっと身近にしなければいけない」という課題感から、まずロボットにあいさつをさせるところから始めた工場もあります。
遠隔巡視:着替えの時間を省く
クリーンルームは、入室のたびに着替えに時間がかかります。管理室からロボットで巡視し、現場の方とそのまま会話する使い方です。
「置き換え」より、やれていなかった仕事を増やす
パネルでは「現場の人の仕事はどう変わるのか」という問いが出ました。答えは、人の仕事を丸ごと置き換える事例は、現状まだ少ない、というものです。
それでも、導入した企業には次の2つの価値が生まれています。
業務の一部を担うだけでも助かる。空いた時間を他の業務に回せます。また、「まず現場でロボットと一緒に働く機会を増やす」こと自体を、組織として追いかけている企業もあります。導入してみないと、次に打つべき手が見えないからです。
やりたくてもやれなかった仕事を担える。24時間、1時間ごとのメーター撮影を人に頼むと、コストもかかり、そもそもその体制を組む人を集められません。ロボットなら、一度設定すれば、あとはたまに面倒を見るだけで回り続けます。
「やった方がいいけれど、できていなかった」情報収集や作業を増やすことで、品質を底上げできます。自律移動サービスロボットの価値は、人の減少分を埋めるだけでなく、現場の業務を拡張するところにあります。
また、他拠点との関わり方も変わります。遠隔から歩き回って会話できると、本社と地方工場、海外拠点の間で共有できる情報量が増えます。外国人スタッフと働く現場のコミュニケーションを滑らかにする手段にもなります。
現場実装の壁:「フィジカル・フィッティング」
パネルで登壇3社に共通したキーワードが「フィジカル(物理環境)へのフィッティング」です。工場にロボットを入れると、想定していなかった物理環境の問題が必ず出てきます。
現場で実際に起きたこと
- 充電ベースに戻れない。作業の中で、いつもはない物が置かれていました。社内で周知はしていても、徹底するのは難しいものです。床に「ここはロボットが止まるので物を置かない」という印をつけて解決しました。
- わずかな傾きで帰れない。水平器で測らないと気づかない程度の床の傾きが原因で、ホームベースに戻れないことがありました。
- メーターの高さが合わない。ロボットのカメラの高さは決まっています。外付けカメラで対応することもできますが、オプション費用が重なると、コスト削減のための導入が本末転倒になります。それなら、メーターの位置を少し引っ張ってきて撮りやすくした方が早い、という判断になります。
ロボット・システム・設備の3者が歩み寄る
導入を実現するには、次の3つの調整を同時に進める必要があります。
- ロボット(ハード)側:カメラ、センサー、アタッチメントの選定
- システム(アプリケーション)側:巡回ルート、撮影地点、データの扱い、通知の設計
- 設備(現場)側:置き場のルール、メーターの配置、床や通路の環境

パネルでは、ロボット掃除機の例も挙がりました。発売当初は「使えない」と言われましたが、利用者が掃除しやすいように部屋を整えるようになって普及しました。工場のロボットも同じです。ロボットを入れれば終わりではなく、現場に合わせて三方を調整することが、実装の本体です。iPresenceは、ロボットの販売だけでなく、この現場合わせまでをご一緒に進めています。
ROIは合うのか?最大の壁は「最初の1台」
会場からは「労働力として導入するにはまだROIが合わない。実現への最大の壁は何か」という質問が寄せられました。
実際、「ROIが合うから稟議が通った」という導入は、まだ少数です。多くは「新しいことに取り組む予算」で導入されています。ここには次のような悪循環があります。
- 導入してみないと、どこまでできるか分からず、次の手を正確に打てない
- ところが「まず試してみる」のハードルが高い
- 最初の1台が遅れるほど知見がたまらず、ROIの合う使い方も生まれにくい
特に高いのが、情報セキュリティの壁です。クラウドとデータをやり取りするロボットを機密性の高い生産ラインに入れるには、情報システム部門のセキュリティチェックだけで数か月かかることもあります。推進する担当者の熱意がないと、他部署との調整を突破できません。
だからこそ、最初の1台を入れるまでの道筋を短くすることが重要です。例えば、セキュリティ審査に必要な資料を先にそろえる、対象業務を1つに絞って小さく始める、といった進め方です。
またパネルでは、「目先のROIだけではなく、将来のROIで考えるべきだ」という意見も共通していました。「5年後に現場の作業員がいなくなる」という前提に立つと、投資の見方は大きく変わります。
フィジカルAIの進化で、1台の可能性はどう広がるか
フィジカルAIの進化によって、自律移動サービスロボットの仕事は「決められたことをこなす」から「状況を判断して動く」へ広がっていきます。

| 領域 | いま | これから |
|---|---|---|
| 仕事の範囲 | 撮影・記録 | 基幹システムや生産システムと情報をやり取りし、報告や初期対応の提案まで |
| 移動 | 事前に登録した地点へ行く | 周囲のカメラなどから状況を判断し、その場で最適な場所へ自ら向かう |
| 情報の示し方 | 決まった映像や画面を表示 | 生成AIで、会話に合わせたグラフや画面をその場で作って表示 |
| 判断と行動 | 人が判断して指示 | 設備や基幹システムと連動し、ローカル環境の中で判断して行動 |
ここで鍵になるのは、ロボット単体の賢さよりも、設備や既存システムとの連携です。工場がすでに持っているデータや仕組みにロボットをつなぐことで、「人しか歩かなかった場所」に新たな労働力が生まれます。
その先には、オフィスやショールームでの接客・対話への展開も見据えています。建物の中のIoTデバイスから得た情報を、設計や企画の担当者が分かりやすい形で見られるようになれば、働く場そのものが変わっていくはずです。
まとめ:人が元気に働ける現場のためのフィジカルAI
工場のフィジカルAIは、ヒューマノイドの完成を待たなくても始められます。自律移動サービスロボットなら、決まった仕事はAIが回し、判断が要る場面には人が遠隔から入る、という形をいま実現できます。
ただし、成果を出すには、現場の物理環境に合わせた調整と、最初の1台を入れるまでの伴走が欠かせません。
iPresenceが提供しているのはロボットやフィジカルAIですが、目指しているのは、現場で働く皆さんが楽しく、元気よく、仲よく働ける環境づくりです。生産量の数字だけでなく、拠点間のコミュニケーションや品質、人の「心の温度感」を大切にしたい企業の皆さまと、ご一緒できればと考えています。







