愛知県主催「TECH MEETS」にて採択された、ANA中部空港株式会社・中部国際空港株式会社との共同実証実験がこのほど終了いたしました。本取り組みは、先端技術を活用し「“迷わせない”パーソナル空港案内」を実現することを目的として実施したものです。搭乗者一人ひとりの空港内タイムマネジメントを最適化し、「迷わず・焦らず・余裕を持って搭乗できる」環境を構築すると同時に、限られた人員でも高品質なホスピタリティを維持できる運営モデルの可能性を検証しました。

本プロジェクトの最終目的は、単なる案内業務の効率化ではありません。空港という大規模かつ複雑な公共空間において、搭乗者の行動を適切なタイミングで支援し、ノーショー(座席予約のあるお客様が搭乗口に現れないこと)の発生を防ぎながら、空港での滞在を“時間体験”として最適化する統合モデルを構築することにあります。ロボット・AI・IoTを統合的に連携させ、「誰に・何を・どの手段で伝えるか」を状況に応じて判断する仕組みの確立を中長期的な将来像として掲げました。

今回の実証では、まず空港ロビーを常時巡回する自律移動ロボット「temi」(以下、temi)を活用し、搭乗券QRコードのスキャンを促す仕組みを検証しました。搭乗客がQRコードをスキャンすると、保安検査場通過締切時刻までの残り時間がカウントダウン形式で表示されます。これにより、搭乗者は自身の時間的余裕の有無を直感的に把握でき、保安検査場への移動判断を主体的に行えるかを評価しました。

スキャン機能を搭載した当日は、temiによる呼びかけに応じて搭乗客が自発的にスキャンを行う行動が確認され、午前中のみで10件以上のスキャンが実施されました。取得したスキャンデータは個人情報を排除した形式でリアルタイム保存され、後日、実際の保安検査場通過データと照合可能な構造としています。これにより、temi介入が平均と比較してどの程度早期通過行動を促したかを定量的に検証できる基盤を整備しました。定性評価に留まらず、検証可能なデータ構造へ落とし込んだ点は、本実証の重要な成果の一つです。

加えて、出発便時刻に連動した自動アナウンス機能も実装しました。出発時刻の40分前になると、temiやタブレット等のデバイスが自動で保安検査場通過締切時刻を告知します。temiが巡回中であっても、定位置待機中であってもアナウンスが行われる設計とし、空間全体に時間意識を喚起する効果を検証しました。個別通知に加え、環境全体へ働きかける仕組みを併用することで、時間管理支援の多層化を図っています。

さらに、電話AIによる自動連絡の検証も実施しました。出発便時刻の40分前に対象者へ自動発信し、会話AIが保安検査場通過締切時刻を音声で案内します。不明点がある場合はコールスタッフへ自動転送し、人による対応へ切り替える運用フローも確認しました。本検証は実証関係者内で限定的に実施し、技術的成立性と運用上の課題抽出を目的としています。ロボット、サイネージ、電話といった複数チャネルを統合制御する可能性を具体的に検証した点も、本実証の特徴です。

KPI設計においては、保安検査場定時通過率、通過リードタイム、案内アプローチ数・行動誘発率、スタッフ体感評価・利用者満足度を設定しました。実装を進める中で、理想的な指標と取得可能なデータとの間に現実的な調整が必要であることが明確になり、最終的にスキャンログを中心とする定量評価基盤へと焦点を絞りました。KGIとKPIを往復しながら再定義するプロセスを経たことは、実装成功のみならず、今後の継続的検証に資する方法論上の成果といえます。

1月19日から1月30日の実証期間においては、移動しながらアナウンスを行うtemiに対し、搭乗客がどの程度関心を示したかを把握するため、temiの前で立ち止まる、あるいは画面をのぞき込むといった行動を示した人数を計測いたしました。その結果、当該期間中に確認された人数は延べ940名でした。これは、音声案内が搭乗客の注意を喚起し、視覚情報へのアクセスへとつなげられているかを測る基礎指標です。単なる通行ではなく、明確な関心行動を定義してカウントすることで、temiによる認知誘導の実効性を定量的に把握することを目的といたしました。

2月16日から2月25日の期間においては、搭乗券QRコードのスキャン実施数を計測いたしました。その結果、当該期間中のスキャン実施件数は67件でした。これは、temiによる呼びかけおよびカウントダウン表示機能が、搭乗客の具体的な行動へと接続した回数を示す指標です。取得されたスキャンログは、後続の保安検査場通過データと照合可能な構造として保存しており、時間認識支援が実際の行動変容にどの程度寄与したかを検証するための基礎データとなります。

一方で、実装過程では複数の課題も顕在化しました。広大で人流の多いロビー空間における自己位置推定の安定性、標準機能と拡張アプリの並行動作時の最適化、コードシェア便など複雑な運行データ構造への対応、遠隔監視・通知基盤の不足などです。また、自律移動するロボット導入に伴う運用ルール整備や管理者理解の醸成、関係者調整にかかるコストも無視できない要素であることが明らかになりました。段階的な導入プロセスを踏み、現場主体で運用できる体制を構築することが不可欠であると確認しています。

総じて、本実証は「“迷わせない”パーソナル空港案内」という将来像に対し、ロボット・AI・IoTを統合した行動喚起モデルの実装可能性を示しました。時間認識支援、個別化通知、多チャネル連携、行動データ取得という四つの要素を組み合わせることで、搭乗者体験と運営効率を両立するスマートホスピタリティ空港モデルへの第一歩を踏み出したものとなります。

以上



※「temi」の日本市場における総代理店且つプロダクト品質マネジメントは株式会社hapi-robo stが担っています。
iPresenceは「temi」の国内販売開始時から株式会社hapi-robo stと協力しながら国内における販売、導入支援および活用最適化を担い、
お客様のニーズに合わせた独自アプリケーションの開発・提供や個別の受託開発にも対応しています。