iPresence 創業10年の歩み
発想と創業
iPresenceの創業者クリストファーズ・クリスフランシスにとって、iPresenceを設立するまでの道のりは、まさに異なる経験が織り重なるようにして築かれていました。クリストファーズは英国の大学では建築学を専攻。卒業後、建築設計事務所で働き(建築士の資格も取得)、建築デザインに携わる中で空間や人々の動線を想像し、具体的な形にする力を培っていました。その後、大手人材紹介会社での勤務を経て、グローバル企業の西日本拠点の立ち上げから全国の営業の責任者として電話、ウェブ、テレビ会議システムの事業に携わるようになります。この経験を通じて、遠隔コミュニケーション市場の普遍的な可能性を直感し、「社会に求められる次なる新しい価値とは何か」を追求するようになりました。また、同時に急速に進化するサービスロボット業界にも興味を広げていました。
そんな彼が、初めてテレプレゼンスアバターロボット(以下、テレロボ)「Double(ダブル)」と出会ったのが2014年に開催されたプレゼンテーションイベントTEDxSannomiya(後のTEDxKobe)の運営メンバーとして参加していた時のことです。イベントの中でアメリカからリモートでイベントにロボット参加しているあるIT経営者の様子を目にし、クリストファーズはそのロボットとコミュニケーションツールの新たな組み合わせに強い衝撃を受けました。
「もしかするとこれは面白いかもしれない」
その瞬間、彼の中でアイデアが結びつき、テレビ会議の延長ではなく、空間を超える「テレポート」という新しい可能性が鮮明に浮かび上がったのです。これまでの海外経験や建築などの経験から、このロボットが建物の中で自然に受け入れられる未来を即座にイメージし、これが新しい時代の働き方やコミュニケーションの形を切り拓くと確信しました。
その場で「Double」を利用していたIT経営者に話を聞き、すぐさま米国のメーカーに連絡を取りました。製品の詳細を確認し、日本での販売契約の可能性を探る交渉がスタートしました。迅速な対応と明確なビジョンが功を奏し、数週間後には「Double」の日本での取り扱いが正式に決定しました。並行してクリストファーズは「iPresence合同会社」を2014年5月に法人登記。こうして、iPresenceの第一歩が具体的な形を取り始めたのです。
神戸六甲アイランドでのスタート
クリストファーズがオフィスの場所として選んだのは、神戸六甲アイランドにある「ファッションマート」でした。この場所はかつてファッション流通の拠点として機能し、現在はIT企業が集まり始めていたエリアです。ロボットの保管や発送を行うための倉庫機能も備え、神戸市出身の彼自身が六甲アイランドに住んでいるという利便性も選択の理由でした。
最初のオフィスは、2人が座れる小さな個室と共用部の会議テーブルだけという質素なものでした。しかし、クリストファーズは「見栄を張る必要はない」と考えていました。最低限のコストで最大の利益を生み出す、堅実な経営スタイルを最初から徹底していたのです。
最初の取扱製品――「Double」
「Double」の販売がスタートすると、そのアイデアの珍しさから企業や教育機関からの注目が集まりました。初めての展示会では、多くの来場者が実際に操作し、その技術の可能性に感嘆の声を上げました。会場で経営幹部から直接の問い合わせを受けることもありました。
「これを使えば、遠隔地の会議が一変するかもしれない」
導入を検討した企業の多くが、リモートワークやグローバルな拠点間のコミュニケーションに可能性を見出しました。iPresenceは、製品のデモンストレーションだけでなく、具体的な活用方法や導入支援を丁寧に行い、着実に信頼を積み上げていきました。
「kubi」の取扱い開始
「Double」の販売を開始してほどなくして、クリストファーズは当時の大阪工業大学の教授から「kubi」の存在を聞きました。「kubi」は卓上型のテレロボで、首振り機能を備えたコンパクトな設計が特徴でした。この情報を得たクリストファーズは、即座にメーカーに連絡を取り、輸入と販売契約を成立させました。
「kubi」は、会議室や教室といった小規模な空間での活用を想定しており、「Double」とは異なるターゲット層に訴求しました。このスピード感のある決断と展開は、iPresenceの柔軟性とグローバルなネットワーク構築力を象徴しています。
iPresence Networkの構想
Doubleとkubiの販売が進む中で、クリストファーズは具体的なビジネスモデルを描き始めました。それが「iPresence Network」の構想です。このネットワークは、施設間でテレロボを共有し、誰もが自由にテレポートを利用できる近未来のテレポートインフラを目指したものでした。
「これからの時代、ロボットもシェアされるべきだ」と考えたクリストファーズは、シェアリングエコノミーが浸透し始めた社会の流れを捉え、この構想を具体化し始めました。iPresence Networkの構想は、テレロボが個人の所有物ではなく、公共的なリソースとして活用されることを目指しています。
数年後、この構想は「iTOUR」という形で具現化され、観光業や商業施設を中心に新たなプラットフォームサービスとして展開されることになります。iPresence Networkは、iPresenceが単なる製品販売企業を超え、社会インフラの変革を目指す企業であることを象徴するものでした。
共創とプロトタイプ開発の始まり
2015年、iPresenceはさらにその活動範囲を広げ、大阪駅前の先進施設グランフロント大阪を運営するナレッジキャピタルが提供するナレッジサロンでも活動を始めました。この場所は、異なる業界や専門分野の人々が集い、新しいアイデアを共創するための拠点でした。クリストファーズはここで、多くのサロンメンバーと交流を深め、彼らとのディスカッションを通じてiPresenceの事業アイデアを磨いていきました。
また、ほぼ同時期に、大阪天満橋にあるモノづくりコワーキングスペースとのつながりが生まれました。ここで出会った開発者やエンジニアたちとの協力が、iPresenceの自社製品開発を現実のものへと近づけていきました。テクノロジーとデザイン、そしてユーザビリティを兼ね備えた製品を形にするための議論と試行錯誤が、夜遅くまで続く日々が始まりました。
IZZYとANKO――プロトタイプ開発の成果
ナレッジサロンやコワーキングスペースでの出会いを通じて、iPresenceは初めての自社プロトタイプ開発に着手します。まずは、デジタルサイネージ一体型テレロボ「IZZY」が誕生しました。このロボットは、遠隔地から操作できるだけでなく、広告や情報発信の機能を備えており、商業施設やイベント会場での活用が期待されました。
続いて、iPresenceはユニークなウェアラブルタイプのテレロボ「ANKO」を発表しました。このプロダクトは、リモートプレゼンス技術の新しい可能性を示すもので、開発段階から多くの注目を集めました。
ANKOは、ユーザーが背負うことで機能するロボットです。その特徴は、背負ったユーザーの隣にディスプレイを配置し、そのディスプレイを遠隔操作で左右に動かせることにあります。これにより、遠隔地から操作する人が、まるで一緒に隣を歩いているかのように、時間や会話を楽しむことができる臨場感を提供しました。
この革新的なコンセプトとインパクトのある見た目は、展示会やイベントで大きな反響を呼びました。「こんな形のリモートプレゼンスがあるのか」と驚きを示す声が多く上がり、ANKOはiPresenceの技術力と発想の独自性を象徴するプロダクトとなりました。
iPresenceの開発チームはプロトタイピングの成功を通じて、自社製品の開発力にさらに自信を深め、より幅広いシーンで活用されるプロダクトの実現を目指すようになりました。
IZZYプロトタイプ
英国法人設立とArs Electronica出展
2015年9月、iPresenceは英国法人「iPresence Ltd.」を設立し、ヨーロッパ市場への進出を開始しました。同時期に、オーストリア・リンツで開催された世界的なメディアアートの祭典「Ars Electronica Festival 2015」に出展。ナレッジキャピタルとの連携のもと、「Being There Without Being There」(「そこに居ずともそこに居る」)をテーマに、遠隔地からでもその場に「存在する」感覚を提供するリモートプレゼンス技術を紹介しました。
そこでは、日本にいるiPresenceメンバーが「Double」を使用してオーストリアの会場に遠隔来場を行い、距離を超えるリモートプレゼンスの実用を訴求しました。この展示は、単なる技術の紹介を超え、リモートプレゼンスが人々の働き方や社会との関わり方を変革する可能性を示すものとして高い評価を受けました。
東京都立産業技術研究センターとの共同研究
2016年、iPresenceは東京都立産業技術研究センター(都産技研)の「ロボット産業活性化事業」に採択され、都産技研との共同研究としての開発取り組みを開始しました。
「iTOUR」で観光分野の新たな可能性を開拓
2017年、都産技研との共同研究成果として、バーチャル観光システム「iTOUR(アイツアー)」を発表しました。iTOURは、テレロボを活用し、遠隔地から観光地を巡ったり、現地スタッフとのリアルタイムコミュニケーションを可能にする革新的なソリューションです。
その実証の場として選ばれたのが、大阪府や大阪市の共同体が主催する冬の風物詩であるイルミネーションイベント「光のルネサンス」でした。このイベントでは、iTOURを活用して海外や日本国内のさまざまな地域から遠隔で参加する観光体験が提供されました。遠隔地からテレロボを操作し、美しく輝くイルミネーションを巡りながら、現地ガイドスタッフとリアルタイムで対話することで、従来の観光とは異なる「新しいスタイルの観光体験」を実現しました。
この取り組みは、観光業界におけるリモートプレゼンス技術の可能性を示すものであり、iTOURが観光地のプロモーションやインバウンド需要の喚起に有効なツールであることを実証しました。
ナレッジイノベーションアワード準グランプリ受賞
2017年、iPresenceはナレッジキャピタル主催の「ナレッジイノベーションアワード」で準グランプリを受賞しました。この受賞をきっかけに、iPresenceはナレッジキャピタル公認のコラボレーションプロジェクトに中心的な存在として参画することとなりました。
この参画が、後のCARE-JIROの開発やANA AVATAR XPRIZEへの挑戦など、数々の革新的な取り組みを実現する基盤となりました。また、この受賞を皮切りに、iPresenceはその後も数年連続で同アワードを受賞する快挙を成し遂げ、イノベーション分野における存在感を一層強めていきました。
※動画は2021年、3回目の受賞となったプレゼンテーション
「CARE-JIRO」――介護分野への挑戦
2018年、iPresenceは神戸市医療産業都市部が公募していた介護ロボット開発への助成金を活用し、自動運転巡回ロボット「CARE-JIRO(ケアジーロ)」のプロトタイプ開発に着手しました。このプロトタイプは、高齢化社会の深刻な課題である介護施設内の人手不足に対応するための実験的な取り組みとして位置づけられました。
施設内の巡回や安全確認を遠隔操作で行える機能を備えたCARE-JIROは、特に夜間の見守りや巡回業務での活用が期待されました。また、テレビ電話機能を通じて、利用者とのコミュニケーションを支援する設計が施され、介護業界でのニーズに応える形となっています。
完成したプロトタイプは、神戸市医療産業都市部のブースに出展され、全国の介護業界関係者に向けたアピールが行われました。この展示は、実際の導入ニーズを探るとともに、プロトタイプの改良点や市場の期待を反映する重要な機会となりました。
「Teleportation as a Service (TaaS)」の提唱
2018年、iPresenceは「Teleportation as a Service (TaaS)」という新たな事業コンセプトを打ち出しました。それまでのリモートプレゼンスという機能そのものに焦点を当てたアプローチから、テレポート技術の便益を社会に普及させるための具体的な商品やビジネスモデル、サービスモデルとして展開する意志を正確に表現した形となりました。
TaaSは、遠隔地への瞬時のアクセスを可能にし、教育、医療、観光、ビジネスといった幅広い分野での利用を視野に入れたものでした。この概念は、単なる技術革新ではなく、「人々が行きたい場所に瞬時にアクセスし、対話を通じて価値を創出できる未来」を実現するための一歩として提唱されました。
ANA AVATAR XPRIZEへの挑戦
2018年、iPresenceは国際的なアバターロボット開発コンテスト「ANA AVATAR XPRIZE」にエントリー。
XPRIZEは、人類に役立つ新技術の発展を目的に、世界的なコンペを企画・運営するアメリカの非営利団体です。そのミッションは、世界中の個人や組織が斬新なアイディアや技術を競い合い、人類の進歩に繋がる画期的なブレイクスルーを達成することにあります。
iPresenceがエントリーした「$10M ANA Avatar XPRIZE」は、遠隔地におけるリアルタイムのプレゼンスや五感、動作の伝達を可能にするアバターシステムの開発を目指した総賞金1,000万ドル(約10億円強)のコンペでした。このコンペでは、遠隔地のロボットアバターを操作し、環境や人々と対話・交流できるシステムが求められ、世界中の研究チームがその開発に挑みました。
クリストファーズは、大阪工業大学やナレッジキャピタルのメンバーと共に、空気圧で動く柔らかく安全なロボットを企画。握手やハグといった自然な動作を実現するテレロボを開発しました。
多くの強豪がいる中、書類審査を通過し、セミファイナルに進出したiPresenceは、ロボットをアメリカの会場へ輸送し、現地での動作審査を受けました。残念ながらファイナルには進出できませんでしたが、限られたリソースの中でグローバルな競争に挑んだこの試みは、iPresenceにとって非常に有意義な経験であり、世界の技術レベルを肌で知る機会となりました。
「Avatar Robot for Zoom」――ビデオ会議Zoomをロボット対応させた独自アプリ
2019年、iPresenceはテレビ会議システム「Zoom」をベースにしたテレロボ用ビデオチャットアプリケーション「Avatar Robot for Zoom」を開発しました。このアプリケーションは、異なるメーカーのロボットに対応する仕様を備えており、特にすでにグローバルで販売されている「kubi」と「temi」のユーザー向けの利用を視野に入れて設計されました。
「Avatar Robot for Zoom」は、テレロボを通じた円滑なテレポーテーション体験、リアルタイムな遠隔操作と、Zoomによる円滑なビデオ会議体験を統合することで、教育、ビジネス、医療といったさまざまな分野での利用を目指したものです。このソリューションは、リモートプレゼンス技術をさらに多様な場面に拡張し、より直感的で効果的な遠隔コミュニケーションを実現しました。
立命館大学校友会100周年記念パーティーへの支援――新たな可能性の実証
2019年、iPresenceは立命館大学校友会100周年記念パーティーにおいて、海外卒業生が自律移動型ロボット「temi」を使って遠隔参加するための機器提供とテクニカルサポートを実施しました。このイベントでは、複数台のテレロボを利用する企画と実施を支援するという、日本で初めての試みが行われました。
iPresenceのサポートにより、物理的な距離を超えて卒業生がイベントに参加することが可能となり、会場にいる参加者とのリアルタイムな交流が実現しました。この成功は、iPresenceが単なる機器販売やシステム提供に留まらず、ビジネスイベント(MICE)分野への事業展開においても新たな可能性を切り拓く契機となりました。
最もシンプルでミニマムなiPresenceのコンセプト――「Telepii」の誕生
「動く電話Telepii(テレピー)」は、iPresenceが他の商品を販売する傍らで少しずつ進めてきた、同社のコンセプトを最もシンプルでミニマムに体現するプロダクトです。家族が離れているときも、まるですぐそばに居るように一緒の時間を過ごせることをメインのユースケースとして開発。長い試行錯誤の末、光の点滅で動作を制御するという独自技術を確立し、特許を取得。親しみやすさを重視した卵型の形状や、ペットのように可愛がってもらえるようにという意図を込めたネーミングなど、コンセプト、技術、デザイン、ブランディングすべてにこだわり抜いたプロトタイプが完成しました。
満を持して2020年11月にクラウドファンディングを通じた予約者募集を開始。Telepiiのプロジェクトは成功を収め、iPresence初となる量産製品となりました。
Telepiiの電子基板にはiPresenceのロゴが刻まれ、その製造は品質と製造マネジメントの観点から、海外ではなく日本の福島県で行うことが決定されました。量産に向けた工程では多くの課題にも直面しましたが、これを乗り越えて量産を完了させることで、iPresenceの技術力とものづくりへの情熱が結実した製品が誕生しました。
島根県松江市と兵庫県神戸市をつなぐオンラインイベント
2020年、iPresenceは社会福祉法人みずうみとリコージャパン株式会社と共同で、島根県松江市と兵庫県神戸市をつなぐオンラインイベントを開催しました。このイベントでは、島根県知事、松江市長、神戸市長、リコージャパン社長、そしてiPresenceのクリストファーズが視聴参加者に向けてメッセージを送り、地域間交流を促進する意義深い取り組みを披露しました。
イベントの目玉として、松江市から神戸の南京町、有馬温泉、神戸港を巡るテレロボによる遠隔観光が実施されました。この豪華な企画は、技術と地域文化の融合を示す象徴的なイベントとして、オンライン観光の新たな可能性を広げる成功事例となりました。
3Dデジタルツインサービスの取り扱い開始――現実をデジタルで再現する新技術
2020年、iPresenceは新たな事業として3Dデジタルツインサービスの取り扱いを開始しました。このサービスは、専用のカメラを使用して実際の施設をスキャンし、デジタル上に瓜二つの精細な3Dモデルを再現するものです。
ショールームや文化財のデジタルツイン化に対する需要は多く、現地を訪れることが難しい状況下でも、リアルな体験を提供する手段として高く評価されています。この取り組みは、商業施設や観光資源の活用方法に新たな可能性を示し、多くの顧客から喜ばれる結果となりました。
ArchiTwin社の設立――デジタルツインに特化した新たな展開
2020年、iPresenceはデジタルツイン事業の専門性をさらに強化するため、関連会社「ArchiTwin株式会社」を設立しました。この新会社は、デジタルツインプラットフォームシステムの開発と提供を主な事業とし、ゼネコン向けの施工管理記録や可視化、指示精度の向上を主要な用途としてターゲットにしています。
さらに、ArchiTwinのシステムは3Dオブジェクトの配置機能も備えており、バーチャルショールームのカスタム制作ツールとしても活用可能です。この多機能性により、建設業界だけでなく、商業施設や展示会など幅広い分野で利用されるシステムとなっています。
「Avatar360」の開発と次世代型MICEテクノロジーへの挑戦
2021年、iPresenceは株式会社リコーとの協力により、360度カメラ「RICOH THETA」を自律移動型ロボット「temi」と連携させたアプリケーション「Avatar360」の開発を開始しました。このアプリケーションは、360度の視点でリアルタイムの体験を提供することで、リモートプレゼンスの可能性をさらに広げるものです。
2022年には、この取り組みが東京観光財団による次世代型MICEテクノロジーの実証事業に採択されました。iPresenceは、メタバース技術と体験を融合させた実証を行い、新たなMICEテクノロジーの実用性と可能性を示す成果を収めました。この実証は、観光業やビジネスイベントにおけるリモートプレゼンス技術のさらなる展開を後押しする重要な一歩となりました。
「テレロボ学校生活参加」サービスの開始
2021年、iPresenceは健康上の理由で通学が困難な学生を支援するため、「テレロボ学校生活参加」サービスを開始しました。このサービスは、アバターロボット(テレロボ)を活用して、学生が遠隔地から授業に参加し、クラスメートとの交流を続けられる環境を提供することを目的としています。
この取り組みは、競輪協会の社会福祉事業予算を資金元として進められました。サービスにおいて使用される専用アプリ「Telepotalk」は、temi、kubi、Keiganといった複数のメーカーのテレロボと連携可能で、設定によりロボットの種類を簡単に切り替えて利用することができます。
Telepotalkは、学生が学校生活の一員としてより自然にコミュニケーションできるよう、多彩な機能を備えています。これには、ビデオチャット機能やスタンプ機能、バーチャルアバター機能、チャット機能などが含まれています。このサービスは、教育現場における新たなコミュニケーションの可能性を切り拓くものとして、注目を集めています。
3Dデジタルツインとテレロボの連動実証――バーチャルとリアルをつなぐ新体験
2022年、iPresenceは3Dデジタルツインとテレロボを連動させた新たな実証を行いました。このプロジェクトでは、宮崎県日向市駅に隣接する「まちの駅とみたか物産館」の館内をデジタルツイン化。バーチャル空間にはお土産や観光情報が詳細に再現されると共に、館内に設置されたテレロボへのアクセスポイントがタグ付けされました。
遠隔地の訪問者はデジタルツイン空間を通じて館内を見学し、空間内に配置されたアクセスポイントをクリックすることで、現地のテレロボ(temi)に「テレポート」する体験を楽しむことができます。テレロボを使って館内を自由に歩き回りながら、現地スタッフとコミュニケーションを取り、お買い物をすることで、バーチャル空間とリアル空間を行き来する新しい遠隔体験が実現しました。
この取り組みは、観光業や商業施設でのデジタルツインとリモートプレゼンス技術の可能性を示すと共に、新たなユーザー体験を提案する成功例となりました。
神戸DXセミナーでの遠隔講演――大型ディスプレイのテレロボ
2022年、iPresenceは神戸商工会議所主催のDXセミナーにおいて、THK社が提供する大型ディスプレイモニターテレロボを使用した遠隔講演を成功させました。クリストファーズは出張先の奈良からリモート接続し、神戸の会場に集まった約200名の参加者に向けて講演を実施。大型テレロボを通じた講演は、まるでその場にいるかのようなリアルな存在感を提供し、大きなインパクトを与えました。
ローカル5Gを活用した技術開発
2023年、iPresenceは東京都産業技術研究センターとの共同研究に再び採択されました。受託したプロジェクト『ローカル5Gを活用した、テレロボ「temi」を活用した遠隔商談・展示会向け遠隔操作ロボットアクセス管理システムの実証実験』では、大阪・関西万博を見据えた展示会の場としてインテックス大阪で実施され、オンライン来場者50人を対象に提供が行われました。
この実証実験に向けて、iPresenceは複数メーカーのテレロボットを対象に、現在位置やデジタルツイン連携情報を表示するシステムを開発。遠隔商談を求めるオンライン来場者がスムーズにテレロボを利用できる環境を構築しました。また、ローカル5G、SLAM、画像認識、M2M技術を活用することで、屋内での正確な位置推定やリアルタイム処理を可能にし、テレプレゼンス技術の新たな可能性を実証しました。
合同会社から株式会社へ
2023年、iPresenceは商号をiPresence株式会社へと変更しました。この体制転換により、さらなる業務拡大を目指す姿勢を明確にし、成長を加速させる基盤を整備しました。
「AvatarLink」の提供開始――23台の多種テレロボを連携した会議システム
2023年、iPresenceは国立大学法人電気通信大学において、次世代ハイブリッド教室の実現を支援しました。この取り組みでは、temi、kubi、telepiiの3種からなる計23台のテレロボを導入し、オンラインとオフラインを融合させた新しい教育環境を提供しました。
さらに、iPresenceはオンライン会議ツールZoomとMarketplaceを基盤に、新アプリ「AvatarLink」を開発。複数のロボットがPCからでも同時に教室へ入室可能となり、オンライン参加者が各自異なるロボットを操作できたり、ブレイクアウトルームを使ったりできるようになり、遠隔地からでも物理的な教室やイベントに存在感を持って参加できる環境を実現しました。
このプロジェクトは、教育のデジタル化を進める重要な一歩として、次世代のハイブリッド教育モデルを示す成功事例となりました。
「AvatarTwin」の提供開始――メタバース型デジタルツイン
2023年、iPresenceは3Dデジタルツインメタバースシステム「AvatarTwin」の提供を開始しました。このシステムは、実空間を精巧に再現したデジタル空間を活用し、その中を複数人のアバターが自由に動き回り、会話や鑑賞、視察を行えるサービスです。
「AvatarTwin」により、従来のオンラインコミュニケーションに新たな次元が加わり、遠隔地からでもリアルに近い形での交流や共同作業が可能となりました。この取り組みは、ビジネスや教育、観光などさまざまな分野におけるリモート体験の進化を象徴するものとなっています。
BCC株式会社との資本業務提携――ヘルスケアDXの推進
2024年、iPresenceは東証グロース上場企業のBCC株式会社(本社:大阪市中央区、代表取締役社長 伊藤一彦、東証グロース:7376)との資本業務提携を締結し、出資を受け入れました。この提携は、iPresenceの先端技術を活用し、BCCが推進するヘルスケアDXの構築や介護分野でのロボット活用の可能性を広げることを目的としています。
iPresenceが掲げる「Teleportation as a Service」の事業理念と、BCCのヘルスケアビジネスが目指す心豊かな高齢化社会の実現が融合。リモートコミュニケーション技術や3Dデジタルツイン技術を介護現場に導入することで、高齢者のQOL向上や介護現場の省力化を目指した取り組みが進められています。
メタバースでの展示体験を提供
2024年、iPresenceが技術提供を担当する「アバター学校生活参加支援コミュニティ」は、特別支援学校・学級や子ども支援機関の小中高生から作品を募集し、メタバース空間を活用した「メタバース展示大会 あなたの自慢作品」を開催しました。このプロジェクトでは、3D作品部門、2D作品部門、文章作品部門の合計140作品がデジタル技術を駆使してデジタルデータとして3D再現され、メタバース空間に配置されました。
この展示大会では、訪問者が自由に空間を移動し、それぞれの視点で作品を鑑賞できる没入型の展示体験を実現。iPresenceは、メタバース技術を活用した新しい価値提供の実績をさらに拡大しました。
「WELDEMOTO」の開発――FAロボット操作用3Dデジタルツイン
2024年、iPresenceは高丸工業株式会社が企画・販売を行うシステム「WELDEMOTO」の開発を担当し、慶應義塾大学の研究室との共同開発を通じてβ版の提供を開始しました。このシステムは、工場で使用されるアームロボットを3Dデジタルツイン技術で遠隔操作するもので、現地作業の危険性を排除するとともに、直感的で使いやすいノーコードプログラミングが可能な設計となっています。
専門的なロボットプログラミングスキルを必要としない「WELDEMOTO」は、生産性の向上と安全性の確保を両立させる画期的なソリューションとして注目を集めています。慶應義塾大学との連携により、先進的な技術と実用性を融合したこのシステムは、工場現場の作業効率を大きく向上させることが期待されています。
Zoom Experience Day Summerでのスピーチ――ICIAM2023支援事例の共有
2024年、クリストファーズはオンライン会議Zoomの提供元であるZoom Communications, Inc.が主催する「Zoom Experience Day Summer」にスピーカーとして招待されました。スピーチでは、明星大学の山中脩也教授と共同で登壇し、2023年に開催された国際産業数理・応用数理会議(ICIAM2023)で、iPresenceが実施したテレロボ技術とZoomの融合による支援事例を紹介しました。
ICIAMは世界中の研究者や専門家が集い、数理科学の最新の研究成果や応用技術について議論する国際的な場です。iPresenceは、temiでポスターセッションの無人展示説明、temiでのオンライン参加者の遠隔来場および発表者への質疑、100講義パラレルZoom配信セッションと一括モニタリングシステムの構築、ICIAM2023会場の3Dデジタルツインアーカイブを提供。
これらの取り組みにより、物理的な制約を超えた学術交流が実現され、参加者から高い評価を受けました。クリストファーズのスピーチは、Zoomとテレロボ技術をコラボレーションさせることで得られる可能性を具体的に示すものとなりました。
「temi Platform」を活用した高精細リモートカメラソリューション
2024年、iPresenceはキヤノンマーケティングジャパン株式会社と共同で、高精細高倍率のリモートカメラを搭載した工場巡視用ロボットソリューションを初展示しました。このソリューションは、temiのロボットベースモデル「temi Platform」を活用し、多拠点の工場を遠隔地から詳細に監視できる機能を備えています。
従来のロボットでは解決できなかった課題に対応するために構想されており、今後の工場分野への普及を目指した革新的な取り組みとして位置づけられています。
「会話AI」の実装――多デバイス対応と実証
2024年、iPresenceは生成AIを活用した「会話AI」の技術を高める方針を定め、自律移動型ロボット「temi」に搭載すると共に、その他のデバイスにも対応可能な形で試験提供しています。
この技術は、愛知県が主催する「あいちデジタルアイランドプロジェクト」のプログラムに採択され、中部国際空港セントレアホテルにおける実証事業として導入されることが決定しました。このプロジェクトでは、ホテルフロントロボットとして生成AIを活用した会話の価値が検証される予定で、サービス業界におけるロボットとAI技術の活用をさらに広げる重要な取り組みとなっています。
「大阪・関西万博」への協力と「スペシャルキッズ未来構想チャレンジコンソーシアム」への参加
2025年に開催される日本国際博覧会「大阪・関西万博」において、iPresenceは運営参加サプライヤーとして協力することが決定しました。また、「スペシャルキッズ未来構想チャレンジコンソーシアム」にも参加が決定しました。このコンソーシアムは、病気や障がいを持ちながらも社会に特別な価値をもたらす「スペシャルキッズ」にテクノロジーを通じて新しい可能性を提供することを目指しています。
コンソーシアムの最初の取り組みとして、万博パビリオンと国内病院をテレロボで接続し、スペシャルキッズに遠隔体験を提供する「どこでも万博withスペシャルキッズ」プロジェクトが進行中です。このプロジェクトでは、病院にいる子どもたちがリモート技術を活用して万博会場をリアルタイムで体感し、現地との交流を楽しむことが可能です。万博期間後も、このプロジェクトで開発された技術やノウハウは、スペシャルキッズのためのさらなる体験提供に活用される予定です。
「どこでも万博withスペシャルキッズ」は、2025年日本国際博覧会『未来社会ショーケース事業出展』「スマートモビリティ万博」における「ロボットエクスペリエンス」の参加予定者としても選定されています。
「kubi」の製造と販売を引き継ぎ、グローバル展開を加速
2024年、iPresenceは米Xandex社より「kubi」の製造権と販売権を譲り受け、日本国内での製造とグローバルへの販売を正式に引き継ぐことが決定しました。この新たな役割により、既存の海外kubiユーザーや海外kubi販売パートナーとの関係構築が可能となり、グローバルな展開が加速することが期待されています。
現在、iPresenceは品質向上に向けた試行錯誤を進めており、2025年にはメーカーとして「kubi 2.0」の販売を正式に開始する予定です。この動きは、日本国内だけでなく国際市場におけるkubiのさらなる成長を促進する重要な一歩となります。
そして創業11年目の先へ
これまでiPresenceは、幅広い開発経験と多様な業界へのアプローチを通じて、常に時代を先取りしたアイデアを形にしてきました。その先見性豊かな発想と確かな実装力により、新しいソリューションを次々と生み出し、着実に導入実績を積み重ねています。
新たな価値を創造する挑戦を続ける中で、iPresenceは単なるテクノロジーの提供者に留まらず、物心豊かな未来社会の実現に向けた信頼できるパートナーとして、これからも多くの人々や企業に貢献していきます。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。今後とも、どうぞよろしくお願い致します。
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