Purpose

iPresenceは、コミュニケーションテクノロジー企業である。この「コミュニケーション」という言葉を、単なる会話や情報伝達の手段として狭くとらえず、人と人、人と空間、人と情報をつなぐあらゆる作用として広く定義している。そこには、オンライン・オフラインを問わない「関わりの総体」が含まれる。人を起点に生じ、媒介し、終着するあらゆる相互作用の設計こそが、私たちの専門領域である。社会は今、物理的な距離を越えたコミュニケーションの質を問われている。単なる映像通話ではなく、「その場にいるような実在感」や「温度を感じるような存在感」、つまり「セミリアル(Semi-Real)」が求められている。iPresenceが注力するのは、この“存在の伝達”を可能にする技術群の社会実装だ。私たちはこれを「テレポート(Teleportation)」という概念で総称し、あらゆる現場に実体験として届けること「Teleportation as a Service」を使命としている。

このテレポートを実現するための現在の主要手段が、テレプレゼンスアバターロボットである。加えて、次の重要な手段としてホログラムの活用を視野に入れている。テレプレゼンスアバターロボットは、遠隔地からの操作によって現地の視点を共有し、会話や案内、業務支援を行うことができる存在だ。たとえば、離れた場所にいる社員が会議室に「ロボットとして参加」したり、教育現場で遠隔教師が生徒と自然に対話することも可能になる。一方で、ホログラム技術については、透過ディスプレイや短焦点プロジェクターを活用したテレプレゼンスの技術検証を行っている段階にあり、事業化にはまだ至っていない。とはいえ、物理的な身体を持たずに“その場にいる感覚”を演出できるこの技術は、次世代の遠隔コミュニケーションを支える重要な要素と考えている。

これらの取り組みはいずれも、テレポートという理想を現代技術で再現するための暫定的な形であり、iPresenceはその実現に向けて日々検証と実装を重ねている。

Origin of the Company Name

社名であるiPresenceの「i」は、「私」「愛」、そして数学における「虚数(imaginary number)」に由来する。虚数が「実在しないが、在ると仮定することで計算不可能であった問題を解く」ための概念であるように、当社は「もし、ここにプレゼンス(存在)があったら?」という問いを起点とし、常識的なアプローチでは解決し得ない社会課題に対し、テクノロジーによる解を導き出すことを哲学的基盤としている。したがって、当社のコアコンピタンスは、単一の製品提供ではなく、ロボット、空間情報、人工知能(AI)、そして人間の感性といった異質な要素を統合(Integration)し、顧客の課題に応じて最適解を創造(Creativity)する能力にこそ存する。

Strategy

テクノロジーを社会に浸透させるには、確かな実績と信頼を積み重ねることが不可欠である。そこでiPresenceは、まずテレプレゼンスアバターロボットの普及を戦略的主軸に据えている。この領域は国内でもまだ黎明期にあり、導入支援・運用支援・システム連携のすべてを自社内で完結できる体制を整えている企業は少ない。iPresenceは創業以来、工場、オフィス、ショールーム、医療機関、教育現場、観光施設など多様な空間における導入を手がけてきた。その現場知見こそが、競合他社にはない優位性を形成している。テレプレゼンスアバターロボット事業の中核には、temiをはじめとする自律移動型ロボットがある。これを単なる機器として販売するのではなく、顧客の空間構造や業務動線に合わせた「最適な活用シナリオ」として提供する。遠隔接客、案内、警備、教育支援など、用途に応じたアプリケーション開発やAI連携を実装し、導入後の運用フェーズまで支援する。この「テクノロジー × 運用設計 × サポート」を一貫して担うことで、単なるロボット販売企業ではなく、テレポートソリューション企業としての地位を確立している。

さらに、その周辺領域として注力しているのが、デジタルツインとAIエージェントである。デジタルツインは、現実空間を三次元的に再現し、遠隔地からその場を理解・操作できる仕組みだ。これにより、建物や施設を仮想空間上で可視化し、遠隔ロボット操作やAIによる分析を容易にする。iPresenceは「Matterport」などの技術を活用し、視覚的に美しく、操作性の高い3Dモデルを構築する技術力を有している。AIエージェント領域では、独自の「iPresence-Agent」を開発している。これは、ロボットやブラウザ上で動作するフィジカルAIであり、ユーザーが設定した人格や役割をもとに自然言語で作業代行やホスピタリティ業務を行う。将来的には、デジタルツイン空間や実空間内のIoTデバイスとも連携し、情報の可視化や意思決定支援を行う。

すなわち、ロボット・空間・AIの三者をつなぎ、「物理とデジタルを融合させた存在感の共有」を実現する技術群こそが、iPresenceの真のコアである。

Product

iPresenceのテレプレゼンスアバターロボット事業は、特定メーカーに依存しないマルチブランド体制を採用している。現在の主力は「temi」だが、これまでに「Double」、「Ohmni Robot」、「Keigan Hato」、「PadBot」といった自律移動型ロボットの販売・導入実績を持つ。すでに販売終了した機体もあるが、iPresenceは「テレポートを実現するために最適な手段を提供する」という理念のもと、メーカーを問わず商社機能を担ってきた。単なる代理販売ではなく、テレプレゼンスという概念そのものを社会に浸透させる企業として位置づけられている。

2025年時点では、temiが最も理想的なアバターロボットとして評価されている。高い安定性、拡張性、品質を備え、工場・オフィス・ショールームなど多様な現場で活用が進む。iPresenceがtemiを優先的に販売するのは、単なる経済合理性ではなく、自社が掲げる「テレポート体験の質」を最も安定して届けられる機体だからである。また、卓上型ロボットの分野でも自社開発を進めており、代表的な製品が一軸構造の「Telepii」である。クラウドファンディングを活用して受注生産を開始し、福島県内の協力工場で製造を行っている。iPresenceはこのTelepiiを通じてハードウェアメーカーとしても存在感を示している。さらに、かつて米国企業が開発していた二軸テレプレゼンスロボット「kubi」の製造権とブランドを引き継ぎ、国内生産体制で再展開を計画している。オリィ研究所がメーカーである分身ロボット「OriHime」についても販売実績があり、あらゆる「遠隔存在の手段」を扱うことで、テレプレゼンスの多様性を体現している。

iPresenceの特徴は、ハードに加えてアプリケーションや運用システムを自社開発できる点にある。各メーカーの純正クラウドサービスだけでは現場課題を十分に解決できない場合、顧客の運用目的に合わせて機能を拡張する受託開発を行う。加えて、自社SaaSとして「Telepotalk」「AvatarLink」「iPresence-Agent」などのアプリケーションを提供し、ロボット・ブラウザ・IoTデバイスを統合的に管理できる仕組みを整えている。これにより、顧客は自社業務や施設運用に即した形で遠隔コミュニケーションを実装できる。iPresenceの事業構造は、ソリューション営業・コンサルティング営業・商社機能・受託開発・独自開発・カスタマーサクセスを一気通貫で担う総合モデル「One-stop Semi-Real Communication Provider」である。この体制により、課題発見から導入、運用、改善までをワンストップで支援できる。こうした総合力こそが、iPresenceが今後業界のプラットフォーマーへと進化していく根拠となっている。

また、自律移動型ロボットの自社開発にも取り組み、研究機関や介護施設への導入実績を持つ。夜間巡回や見守りなど、特定用途に特化したプロトタイプ開発を通じて知見を蓄積している。ただし、量産や保守には大きなリソースを要するため、現段階では優先度を下げ、他メーカー機体を活用しながら事業展開を進めている。将来的には、自社製の移動型ロボットも開発・提供する構想を持つ。さらに、より感覚的なコミュニケーションの実現にも挑戦しており、その象徴が遠隔ハグロボット「FuAra(フアラ)」である。大阪工業大学との共同研究で開発されたFuAraは、安全なソフトロボット機構を備え、遠隔地の人同士が“抱きしめ合う感覚”を共有できる。2025年の大阪・関西万博に出展し、来場者から高い反響を得た。このプロジェクトは、iPresenceが目指す「精神的な温度を届けるテレポート」の思想を具現化したものである。

iPresenceはブランディングの観点からテレプレゼンスアバターロボットの印象を強くしているが、実際にはメタバースやAR・XRといった拡張現実分野でも実績を持つ。メタバース事業では、地域を越えて特別支援学校同士の交流を実現するための仮想空間を構築し、アバターを通じた学びや発表を支援した。また、大阪・関西万博では、パビリオンを持つ企業から依頼を受け、メタバース空間を開発・運用した。AR・XR分野では、比叡山延暦寺の修繕中に、現地マーカーをスマートフォンで読み込むと修繕前の建物が重ねて見られる仕組みを提供。また、大型製造機械メーカーの展示会では、タブレットで実寸大の機械を重ねて表示できるシステムを開発し、運搬コスト削減と理解促進を両立させた。

さらに、オンラインイベントの運営支援にも対応しており、国際的な英語対応イベントを含む複数プロジェクトでテクノロジーサポートを担当した実績を持つ。

Co-creation

ArchiTwin

iPresenceは、自社プロダクトの開発・販売にとどまらず、他社のシステム開発も手掛けている。代表例として、ArchiTwin株式会社が提供する建設業向け3Dデジタルツインシステム「ArchiTwin」のソフトウェア開発と保守を担当している。このシステムは、Matterportを基盤とした建築・建設現場の施工管理支援を主用途としており、建築設計会社やゼネコンに広く採用されている。現場の状態を高精度に3D化し、施工進捗や設備位置、作業履歴を可視化することで、従来の平面管理では難しかった「空間的な進捗把握」を可能にしている。さらに、この技術は建築分野にとどまらず、船舶の遠隔管理やプラント施設の維持管理にも応用が始まっており、3Dデジタルツインを活用した新たな管理手法として拡がりを見せている。

WELDEMOTO

もう一つの代表的な事例が、FAロボットSIerである高丸工業株式会社との共同開発だ。同社が提供する「WELDEMOTO」は、FA溶接ロボットなどの産業用ロボットアームを対象としたデジタルツインシステムであり、iPresenceが開発と保守を担っている。もともと高丸工業からロボットプログラミングの委託を受けていたiPresenceは、現場で行うティーチング作業を遠隔化できないかという相談をきっかけに、このシステムを構築した。CGシミュレーターで再現したロボットの動作を、複数カメラによる実映像と重ね合わせ、CGモデルと実機の位置をリアルタイムで同期させる。これにより、物理的な干渉を事前に検出し、安全かつ効率的に動作を実行できる。現場の作業員が遠隔地からティーチングを行うことも可能となり、生産性と安全性の両立を実現している。

Project

iPresence株式会社は、令和7年度バリアフリー・ユニバーサルデザイン推進功労者表彰において「内閣府特命担当大臣表彰優良賞」を受賞した。病気や障害により外出や通学が困難な人々に対し、テレプレゼンスアバターロボットを活用して社会参加・学習機会を創出してきた取り組みが評価されたものである。本受賞において特に高く評価されたのが、次の二つのプロジェクトである。

「テレロボ学校生活参加」

― 物理的な距離を越えて学校生活に参加できる仕組み ―
本プロジェクトは、自走式ロボットtemi、卓上型kubi、持ち運び型telepiiなどのテレプレゼンスアバターロボット間のテレポーテーションを活用し、病気や障害などの理由で通学が困難な子どもたちが、遠隔から教室に参加できる環境を提供する取り組みである。子どもたちはロボットを通じて授業を初めとした学校生活全般に wに参加し、友人や教師と会話し、休み時間には教室内を自由に見回すなど、まるで同じ空間にいるかのような体験が可能となる。本事業は、2020年度より公益財団法人JKAの補助事業(競輪・オートレースの補助事業)として推進されており、iPresenceは受託元である一般財団法人ニューメディア開発協会からの再委託を受け、技術提供および運営を担当しています。この取り組みにより、長期療養などで学校に通えない子どもたちが、物理的な制約を越えて学校生活に参加し、学習機会や社会性を継続的に維持・向上できる点が、ユニバーサルデザインの観点から高く評価された。

「どこでも万博」

― 大規模コンソーシアムによる社会参加の実証 ―
「どこでも万博」は、病気や障害などにより外出が困難な子どもたち(スペシャルキッズ)が、テレプレゼンスロボットtemiを操作して、2025年大阪・関西万博の会場を遠隔で探索・体験できるようにした社会参加プロジェクトである。本プロジェクトは、iPresenceを含む複数の企業・団体が参画する「スペシャルキッズ未来構想チャレンジコンソーシアム」によって運営され、医療、福祉、教育、技術など多様な専門性を持つ組織が連携して実施された。結果として約4,000名のスペシャルキッズが参加し、ロボットを介して会場を自由に巡り、現地の来場者とリアルタイムで交流するなど、物理的距離を超えた文化体験と社会参加を実現しました。本活動は、博覧会国際事務局(BIE)と世界産業社会進歩研究所(GISPRI)が共同創設した「EXPO INNOVATION AWARD」において、「Social Innovation(ソーシャル・イノベーション)部門」を受賞するなど、国際的にも高い評価を受けている。

Official Selections

iPresenceは、先端技術を活用した社会実装型スタートアップとして、国および自治体が主導する複数の支援プログラムに採択されている。これらの採択は、技術の先進性だけでなく、社会課題への適合性および事業としての実装可能性が評価された結果である。

キングサーモンプロジェクト(東京都)

キングサーモンプロジェクトは、将来的にユニコーン企業へと成長する可能性を有するスタートアップを対象に、事業成長および市場展開を重点的に支援する東京都のプログラムである。iPresenceは、東京都文京区役所との実証を通じて、テレプレゼンスおよびデジタルツイン、AIを組み合わせた事業構想の将来性と社会的意義が評価され、採択された。主に海外マーケティング、事業戦略、ネットワーク構築の観点から専門家による伴走支援と、東京都との随意契約認定を受け、事業の社会実装とスケールに向けた取り組みを進めている。

NEXT 5G Boosters Project(東京都)

Next 5G Boosters Projectは、ローカル5Gをはじめとする次世代高速通信技術を活用した新規事業創出を目的とした東京都の技術実証支援プログラムである。iPresenceは、高精細映像伝送や低遅延通信を活かしたテレプレゼンスおよびデジタルツインの産業応用可能性が評価され、採択された。本プログラムを通じて、遠隔点検・遠隔来場・遠隔カメラマンなどの実証を行い、通信インフラとテレポート技術の統合モデルの検証を進めている。

TECH MEETS(愛知県)

TECH MEETSは、愛知県が推進する「あいちデジタルアイランドプロジェクト」の一環として実施されるオープンイノベーションプログラムである。iPresenceは、ANA中部空港株式会社および中部国際空港株式会社との共創プロジェクトとして、「“迷わせない”パーソナル空港案内の未来を先端技術で創る」というテーマで採択された。テレプレゼンスアバターロボットを活用した空港案内の実証を通じ、空港利用者の利便性向上と新たな顧客体験価値の創出を目指している。

 


以上のように、iPresenceは、会社規模に対して極めて多岐にわたる事業を展開しており、その全容を外部はもちろん、社内の従業員でさえ完全に把握することは難しい。しかしその複雑さは、単なる拡張ではなく、次世代のテレポート社会基盤を担うプラットフォーマーとして必要な構造を創り上げている結果である。