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iPresence「ANA Avatar XPRIZE」に参加したiPresenceにインタビュー│得られたものや課題をもとに今後の展望を聞く

「ANA Avatar XPRIZE」に参加したiPresenceにインタビュー│得られたものや課題をもとに今後の展望を聞く

2022年11月4~5日にXPRIZE財団が主催する「ANA Avatar XPRIZE」の優勝決定戦があり、観戦に行った代表のクリストファーズにインタビューをしました。
 
セミファイナルまで進んだiPresenceのチームは、同大会の最高峰の舞台を見て何を感じたのか、iPresenceの今後の展望は!?
XPRIZEに参加するまでのプロセスと大会結果による課題や得られたことなど詳しく聞いていきます。

ANA Avatar XPRIZEとはどんな企画?XPRIZEとは一体!?

藤本:
ANA Avatar XPRIZEとはどんな企画ですか。

クリス:
まずはANA Avatar XPRIZEで優勝したチームがこちらです。
画像引用:XPRIZE公式ページ

ANA Avatar XPRIZEは、全日空(ANA)がメインスポンサーの国際コンペです。アバターロボットを競う大会で、優勝賞金は1,000万ドル(当時約15億円)。2018年から募集が始まって、iPresenceは2019年の1月に応募しました。

ANAは飛行機を使って人々を移動させるという事業を行ってきましたが、それでは移動できる人に限りがあるということがわかっていました。未来を見据えたときに、テレポートができるデバイスを作っていきたいと考え、分子的なテレポートはまだ難しいことから、アバターロボットでのソリューション開発を進めていったのです。

そんなANAがメインスポンサーをするXPRIZEのコンペによって、世界中から参加者を募り、アバターロボット開発を前進させていこうといった企画です。

藤本:
そもそもXPRIZEとはなんですか?

クリス:
XPRIZEは特にアメリカでは有名なコンペです。イーロン・マスクやジェフ・ベゾス、ラリー・ペイジなどの名だたる起業家がスポンサーを務め、XPRIZEのプラットフォームを使ってコンペを開催しています。

XPRIZEのコンペは、人類の進化を科学的な視点からサポートし、加速することを目的としています。日本でいえば、以前HAKUTOプロジェクトという月面無人探査を試みる企画がありましたが、それもXPRIZEの一環でした。

HAKUTO・・・日本の航空宇宙企業であるispaceにより運営される月面探査チーム。Googleがスポンサーである月面無人探査レース「Google Lunar XPRIZE」に参加した実績がある。
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000008.000024249.html

去年は民間人が初めて宇宙旅行に行ったことが話題になりました。Amazonジェフ・ベゾスやヴァージン社のロケットが民間人の宇宙旅行達成を競いましたね。実はヴァージンのロケットはXPRIZEの優勝チームのロケットを買収して、プロジェクトを成功させています。
https://www.xprize.org/prizes/ansari

iPresenceがANA Avatar XPRIZEに参加した経緯は?参加までの準備は?

クリス:
今回のXPRIZEでアバターロボットのコンペを開催すると知ったとき、日本のHAKUTOプロジェクトのことも知っていたので、iPresenceが参加しないといけないという使命感が生まれました。

というかうちが出さずに誰が出す!という気持ちです。

iPresence一社だけでは参加が難しかったので、神戸のXOOMSというVRなどを扱っている会社に声をかけて2社で参加することに。10万円の参加費を折半しました。

藤本:
XPRIZEは毎回テーマが違うんですね。今回のテーマがアバターだったから申し込んだということですね。

クリス:
そうです。

せっかく参加するんだったらお祭り的な感じにしたいと思って、XOOMSだけではなくナレッジキャピタルや大阪工業大学にも声をかけて、X:Presenceというチームを立ち上げました。

ARが得意な会社、ハードウェアが得意な会社など、それぞれの特性をもった会社とコラボレーションしています。
ANA Avatar XPRIZEは初め、興味を示して登録したのは世界で500チームぐらいで、そこから正式にお金を払って応募までいったのが99チームでした。

次に書類選考で出場するアバターロボットのプランなどの審査があって、77チームまで絞られました。そしてさらに独自のロボットを作り上げるというものです。

書類審査では、「遠隔地はどういった体験なのか」「ロボットはどんな形なのか」といったことが問われます。ロボットの箱体は試行錯誤して様々な案を作成しました。
ロボットって壊れるから殴ったりしちゃだめじゃないですか。触っても倒しても大丈夫なように柔らかい素材で作りたかったんですよ。僕はベイマックスを作りたかったんです(笑)

いろいろ考えたんですけど、パンチングバッグの中に人が浮かび上がったものが、ロボットベースに載ってうろうろするといったアバターロボットを考えました。腕が伸びてきて握手もできます。

藤本:
原案はこんな感じだったんですね。今のとはだいぶイメージが変わります。

クリス:
参加したロボットとは違うけど、今でもこのロボットを作りたいんですよ(笑)

XPRIZEの主催側も募集当初は、「アバターロボットとは」「どこまでのことができるのか」といったことが確かではなかったので、こちら側から何度か提案をし、アバターロボットの定義を固めていったところがあります。

藤本:
この企画はアバターロボットの定義が決まってないうちに始まったんですね。

クリス:
そうですね。
結局書類審査でiPresenceが提出したのがこちらです。

柔らかいボディに映像が出て、人とコミュニケーションができること。中身はシードノイドのロボットを使うというコンセプトを提出しました。

これが書類審査を通過して、99チームが77チームに絞られました。

次は現場テストがあってアメリカのフロリダまで行ってきました。それが2020年の12月でしたが、それまでにも何度も進捗状況を報告しないといけなかったんですよ。

藤本:
参加までには多くのステップがあったんですね。

クリス:
そうです、けっこう大変でした。
主催側に進捗状況の報告や提案をしていくなかで、徐々にロボットの箱体が出来上がっていきました。本体は柔らかい素材で、アームは空気圧で動くといったもの。遠隔地の人は何も身に付けなくてもアバターロボットを動かせる(センサーとカメラで)といったことでプロジェクトを進めていきました。
遠隔側は広角プロジェクターを使って臨場感を出せるようなインターフェースにしましょうとか。毎回チームで試行錯誤しながらやっていましたね。

藤本:
大会に参加するまでけっこう大がかりな準備だったんですね。

クリス:
そうですね。

iPresenceが参画したX:Presenceの大会結果は?他のチームはどうだった?

クリス:
書類審査で77チームが40チームまで絞られて、我々はセミファイナルに参加することになったんですが、それが2021年の9月頃ですね、コロナ真っただ中ということで、メンバーが現地に行けない事態となりました。なのでロボットだけ現地に送って、現地のエンジニアサポートに依頼する形をとりました。

セミファイナルの内容は遠隔でモノを持つとか、パズルを決められた場所に置くという課題を与えられます。操作は現地のジャッジの人です。僕と太田さんは真夜中にZOOMを介して現地の人に口頭でサポートしていました。
やはり日本からのサポートなので、連携がうまくとれず、ロボットの動きも良くなくて。通過することができませんでした。

もう一度チャンスをくれるといった話はあったのですが、日本に返ってきたロボットはボロボロ、往復の送料に100万円以上かかるといった予算の現状。12月にロボットが返ってきてセカンドチャンスが2月とかだったので、スポンサーをとるにも期間が短いといったことで、諦めざるを得ませんでした。

なので、我々はセミファイナルでギブアップという最終結果に終わりました。

そしてセミファイナルをクリアした最終の20チームが、11月5日のファイナルに出場。

内容は持ち時間25分の間にいくつかのタスクをクリアし、そのタイムとクリアしたタスクで順位が決まります。

藤本:
そのタスクをクリアできるロボットを作る必要があるんですね。

クリス:
そうです。タスクをクリアできるロボットを作るといった流れに段々なっていった感じですね。

火星をイメージしたステージでこのようなタスクが用意されています。
ファイナルのタスク
・オペレーターと会話
・レバーを上げて電源スイッチを押す
・ゲートを通る
・液体の入っているボトルを識別する
・凹凸のある場所を通る
・電動ドリルで蓋を開ける
・石の表面の質感を識別する

優勝チームは5分台とダントツのタイムで他のチームを圧倒しました。結局20チーム中全てのタスクをクリアしたのは4チームでした。

ロボットは重いものを持つと操作者の手についているデバイスが反対に引っ張られて重さがわかるようにしています。ロボットがざらざらなものを触ったときは振動が伝わるセンサーが操作者に伝わる。そんな高度な技術が使われていました。
電動ドリルを持つことすらできないチームが多かったのに、優勝チームはいとも簡単に操作していました。

藤本:
ファイナルの内容は事前に知らされているんですか。

クリス:
はい、知らされています。でも操作する人はチームのメンバーではなく、初めてそのロボットを操作する人が1時間のトレーニングを受けただけで競技に参加します。

藤本:
ということは優勝したチームはよっぽど精度がよかったんですね。

クリス:
iPresenceは遠隔操作とコミュニケーションを主体とした事業ですが、ハプティクスとかモビリティとか我々の足りない部分がカバーできて初めて優勝できるといった感じです。
(iPresenceが提供するテレプレゼンスアバターロボットとは:https://ipresence.jp/telepresence_avatar_robot_products/

藤本:
XPRIZEはかなりレベルの高いコンペというのがわかりました。

ANA Avatar XPRIZE参加での課題は?得られたものは?

クリス:
課題としては、応募したときにiPresenceはハードウェアを作る技術がなかったので、協力を募る声掛けやチームを作るのが変でした。あとは一切予算がないところからチャレンジしているのと、チームのモチベーションを保つのとかですね。
X:Presenceとしてもなかなか方向性が出なかったり大変な時期もありました。

藤本:
なかなか箱体が決まらなかったみたいですね。

クリス:
そうなんです。でも大阪工業大学のやる気のある先生が入ってくれて、すごくやりやすくなりました。それからロボット作りが初めて実現できたのは大きなことでしたね。

ANA Avatar XPRIZEに参加してからのiPresenceの今後の展望は?

iPresenceとして実現したいことは、我々がやっているテレロボ事業、Telepiiとかの先にこんなに可能性に満ちた世界があるというのを打ち出したいです。

今回ロサンゼルスのXPRIZEに参加した人たちにTelepiiを見せると「これいいね!」と羨ましがられます。ファイナルのアバターロボットは作るのに数千万円とかかかるデバイスなんですけど、それを極限までシンプルにしたものがTelepiiだったりします。

テレプレゼンスアバターロボットを考えた時にこのように広い幅があるソリューションなんだということをどんどん打ち出したいです。

その上でiPresenceが世に送り出すモノはこれなんだと明確にしていければ、この概念が一般に浸透していくんじゃないかなと考えています。

あとは、2024年にグランフロント大阪の第二期が完成するのと、2025年の関西万博という大きな事業に向けたマイルストーンとしてXPRIZEに参加できたのが良かったですね。

XPRIZEでの経験を次の大きな事業に生かしていきたいと考えています。

藤本:
XPRIZEは価値のあるマイルストーンになったということですね。

クリス:
そうですね。

ファイナル観戦も直前まで行くかどうか迷ったんですが、この世界を皆さんに伝えられてよかったです。

藤本:
新しい世界を見ることができた気がします。今日はどうもありがとうございました。

クリス:
ありがとうございました。

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